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粗品ですが… (3)

いずれ書こう書こう、と思っていたネタにようやく着手したのでそのまま勢いで仕上げてみました。
ちなみに今回は話の内容がボリューム的にも中身的にも若干重めです。

引き続き一応の 注意書き
  • 冒頭にもありますが、足利ひめたまの二次創作です原作・公式とは一切関わりはありません
  • この作品はフィクションです。文中に登場する人物・町・地名・設定等はすべて架空のものであり、実在するものとは一切関わりはありません。
  • 若干オリジナルの設定を加えています。
  • 口調が読者の想像と異なるかもしれませんが、そこは目を瞑って頂けると幸いです。

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底抜けの柄杓

空に掛けられた分厚く灰白色の天蓋、それを形作っていた無数の糸が解けて落ちている。
日本には降水を糸に例えた言葉は存在する。しかし目の前にある光景は、その言葉に込められた繊細なイメージとは少しかけ離れていた。
それは、連日のようにしっかりとした量で降り続ける雨だからである。

「五月雨式、とは確かに言うけどねー。」

みたまはそんな雨に対して愚痴を零すが、その言葉は甲斐無く雨音の中に霧消して行く。
そんな彼女の姿からは、ここ最近思うように二人で出かけることができないでいる鬱憤がありありと感じられた。
いつもならば余計な一言を掛けてちょっかいを出すシロ吉も、現在の状況を鑑みて沈黙を守っている。

「まあ、梅雨だし仕方ないよ。」

一方のおりひめは落ち着いている、というよりは周囲をキョロキョロを見回している。
神社の中にあるものに興味が向いているため、雨へのストレスというのも感じていないようだ。

「…あのね、おりひめ。」
「なぁに、たまちゃん?」
「あたしのうちの中、今更見ても面白くも何ともないと思うんだけど…」

現在三人がいるのはみたまの家、つまり門田稲荷神社である。
未だにさして広くない家の中の探索を続けるおりひめに、流石のみたまも少々呆れの感情を露にした言葉を発した。
それも無理のないことで、おりひめがここを訪れるのは今回が初めてではない。…むしろ毎日のように訪れている。
毎日のように見ている光景をしげしげと観察して、何が楽しいのか…いや、きっと楽しいのだろう。そうでなければ、目を輝かせて今現在もこうして家中のものに目を配り続けているはずはない。
無論、おりひめにとってこの場所が「みたまの家」だから楽しいのであって、普段普通の場所だったらこのようなことはまずしないだろう。

おりひめは物色する対象を徐々に細やかにし、分析して行く。
最初は部屋自体や家具など、目に留まるような大きなもの。続いて大きなものの周りにある物体。やがて筆記用具や食器といった日用品にまでレーダーを広げる。

「あれ?」

そんな中、おりひめのレーダーにあるものが引っ掛かった。
柄杓。本来ならば手水舎の水盤などで見られるものであり、室内にあること自体も奇妙ではある。
しかし、おりひめの目にはそれ以上に奇妙に映るものがあった。
それは、柄杓の魁の部分の底に穴がある…というよりも、底の部分はほとんど皆無で筒抜けになっていた。

「ねぇ、たまちゃん。なんで穴の空いた柄杓があるの?」
「ああ、それも奉納物なのよ。」

おりひめは自分が思った疑問を率直にぶつけてみた。
そこで、どう考えても壊れたとしか思えない柄杓が奉納されたものだという答えを聞き驚く。

「奉納…?穴の空いた柄杓をどうして?」
「それはねえ…あれ、なんでだっけ?」

理由を尋ねたは良いが、みたまは答えに窮した。まさか、奉納された本人が忘れるとは。

望んだ答えがもたらされないと観念したおりひめは柄杓をまじまじと観察し、裏返し、穴を覗き込む。
今は壊れてしまったとはいえ、ちゃんと柄杓としての一生を終えたのであれば付喪神にならないようにちゃんと供養するべきだろう。
しかし、今手にある柄杓からは供養した形跡は見当たらない。
…それどころか、柄杓の穴をよく見れば、それは壊れて空いたものではなく、意図的に空けられたものだと分かる。
わざわざ柄杓に穴を空ける理由などあるだろうか?

「…それは舟幽霊に渡すためのものなんですよ、おりひめ様。」

クエスチョンマークを頭一杯に浮かべたおりひめに、タイミングを見計らったようにシロ吉が声を掛けた。

「舟幽霊って、あの?」
「ええ、そうですとも!」

舟幽霊とは、主に海に出現する妖怪である。
地方によって名前や姿、起こす現象に差はあるものの、一般的には船に乗っていると海上に現れ、柄杓をよこせ、と声を掛けてくる。
そこでその通りに柄杓を貸すと、その柄杓で水を汲んであっという間に船を浸水させ、沈没させるのである。
そこで舟幽霊に柄杓をよこせ、といわれたら、底の抜けた柄杓を渡すと良い、と伝えられる。

「…でもあしかがは、というよりも栃木県自体が海無し県よ?そんな場所に舟幽霊なんて…」

そう、問題はあしかがはおろか、栃木県には海がない。日光には中禅寺湖があるものの、舟幽霊が出現するには山奥過ぎるだろう。
そんな当たり前のことも忘れてるなんて、といわんばかりにみたまは呆れた顔で横槍を投げる。

「あれ、知らないのか?おやびん。」

それを待ってましたと言わんばかりにシロ吉が口を開いた。

「寛保2(1742)年、渡良瀬川で船が転覆した事故があったんだ。
大雨と定員オーバー、そこに船に乗っていた馬がパニックを起こしたのが原因だ。」

今も緑町の愛宕神社にはその事故の犠牲者を悼む「入水碑」が佇んでいるんだぜ、とシロ吉は続けた。
起きた時の具体的な数字とそれに纏わる物が現存しているという事実によって重みを増した言葉が、みたまをけん制する。

「そのときの犠牲者が今も柄杓をよこせと…」
「ひっ…」

たじろいだみたまに、シロ吉はいかにもな雰囲気を醸し出て語る。
話が進むにつれ、みたまの顔色は徐々に青くなって行く。

「…というのはウソで、本当はイソ様のためなんですよ。」
「イソ様って、水使(みずし)神社の?」

ウソと聞いて胸を撫で下ろすみたまに、してやったりと笑うシロ吉。
本来ならばここで鉄拳制裁が入るところであろうが、調子を狂わされたみたまはそのタイミングを逃してしまった。
一方のおりひめは、既に新しい話に飛び付いている。

水使神社とは、五十部町の東の山際に鎮座する神社である。
社伝に拠れば観応2(1351)年創建だといい、現在はミズハノメ命を祭神としている。
しかし伝説では、その土地にあった屋敷の侍女が、目を離した間にいなくなった屋敷主の息子を探していた際、池に映った息子の影―鷹に連れ去られて木の上で殺されていた―を見付け、助けようとして池に飛び込んで溺れた…という言い伝えが伝えられている。
その侍女の名前をイソというのである。
別の伝説では、侍女の子供が誤って屋敷主の甥が飼っていた小鳥を逃がしてしまい、子供はその罰で殺され、侍女はその後を追って池に飛び込んだという話もある。
いずれの伝説でも、事件があって以来、その池・影取の淵のそばを通りかかった者は引き込まれてしまい、侍女を神様として祀ったところそのようなことはなくなった、と伝える点は同じである。

「水に引き入れる、という点では舟幽霊と似ているかもしれないですが、そうではないんですよ。」

シロ吉は続ける。

「かの柳田國男に拠れば、この水使神社には女性が杓文字と飯櫃を持って踊るお祭りがあるという話があるんです。」

曰く、この柄杓はその延長線上にあるシロモノなのだ、と。

「…でも、それだとおかしくない?」
「どうして?」

漸く調子を取り戻したみたまが会話に入り込む。

「だって、杓文字と飯櫃っていうことは、農耕のお話よね?
…とすれば、神様を招かないといけないわけじゃない。」

柄杓と書いて“ひしゃく”と読むことは決して無意味ではない。
元々ひしゃくとは、瓢箪を意味する“ひさご”が転訛したものだという説がある。
瓢箪は液体を入れる容器として用いられた。
すなわちその中身は空っぽであり、それゆえにその「空っぽ」な空間に神様が宿ることができる神聖な道具であった。
柄杓もこの性質を受け継いでいる。つまり、その窪みに神様の魂…まあるい神霊を容れることができるのである。

そう。神様を招き、宿すはたらきを持つ道具であるはずなのに、その部分に穴が空いているなんて。

「ありえないと思わない?役割と矛盾するもの。」
「うぐ…」

予想外のおりひめの反応に、シロ吉が言葉を失った。
元よりみたまをからかい、困らせるためのジョークのつもりではあったが、ここまでしゃべって勢い付いてしまった以上はシロ吉も簡単には引き下がれなくなっていた。
おりひめが次の言葉を紡ぐ前に…頭をフル回転させ続きの一手を考えるシロ吉であったが、先に口を開いたのはおりひめだった。

「…で、思ったんだけど…これって安産祈願なんじゃないかな?」
「…へ?」

続きの先手を取られたことで軽く思考停止を起こしていたシロ吉に、思い掛けないアイデアが降ってきた。

「ほら、赤ちゃんを産むとき、大変なことにならないよう、すぐに終わるようにって、柄杓の底を抜いて奉納する風習があるの。」

今度はおりひめが説明に回る。
確かに、安産祈願の神社の中には、赤ちゃんがつかえないように、と柄杓の底に穴を空けてするっと抜けるようにと願いを込める風習は存在している。
穏やかに語るおりひめ、その顔には赤ちゃんに対する憧憬のようなものも見て取れる。
その表情はすぐに一変したが。

「…でもそれをたまちゃん家に送るっていうことは、たまちゃんに赤ちゃんができたってコト…?」
「な、何を言い出すのよおりひめっ!そんなわけないじゃない!!」
「おやびんにそんな話はないですって、おりひめ様!」

唐突な一言に、みたまの顔は一瞬にして茹で上がり必死に否定する。
おりひめが纏ったオーラの凄みにたじろぎながらも、シロ吉も否定に加わる。

「だよねー、たまちゃんはわたしのモノだもの♪」
「「…」」

オーラが雲散霧消したことにほっと胸を撫で下ろす二人。

「…あ。」

次の瞬間、間の抜けたみたまの声によっておりひめとシロ吉が振り向いた。

「そうそう、思い出したわ!底の抜けた柄“杓”…」

胸部や腹部に突然起きる激痛のことを、「癪(しゃく)」という。
昔はこの痛みをみな癪といっており、それが治るように寺社に祈願することもよくあったという。
そして、祈願した後にこの病気が回復すると、“癪(しゃく)”が“抜けた”ということで、底を“抜いた”柄“杓”を奉納するという風習があったのだという。

「例えば、高松町の癪除八幡宮様。名前の通り癪に霊験あらたかだって昔から言われてて、今でも底を抜いた柄杓が奉納されたお堂が境内にあるのよ。」

おりひめは話を聞き、へぇーと感嘆した。
一方シロ吉は最初から思い出しておけよ、とブーイング気味だが。

「だけどそれって、一種のダジャレみたいなもんだな。」
「まあ、確かに言ってしまえばそうね。
ちょっと前は“さしこみ”とも言ったらしいけど、今はそれさえ言わなくなってきたから…」

つい、忘れてしまったのだ、と言い、てへっと舌を出す。
シロ吉は呆れた。

「で、その癪除八幡宮様と同じ風習がここにもある、というわけ。うちの場合は癪と縁を切りたかったんでしょう。」
「病もそうだが、悪いコトと縁を切るのはおやびんの仕事だからな。本人はそれを忘れてたけど。」

一言多い、とシロ吉にゲンコツが飛ぶ。
安産祈願じゃなくて良かった、とおりひめが胸を撫で下ろす。

外では、いつの間にか雨は止んでいた。


<end.> 

----------
参考文献:
  • 「足利の伝説」 台 一雄著 岩下書店 S.46
  • 「続々 足利の伝説」 台 一雄著 岩下書店 S.59再販
  • 「栃木県神社誌 神乃森 人の道」 栃木県神社庁編集発行 H.18
  • 「妖怪事典」 村上 健司編著 毎日新聞社 2000
  • 「日本昔話事典」 稲田 浩二 / 大島 建彦 / 川端 豊彦 / 福田 晃 / 川原 幸行 編 株式会社吉川弘文館 S.52
  • 「鯰絵 ―民俗的想像力の世界」 コルネリウス・アウエハント著 小松 和彦 / 中沢 新一 / 飯島 吉晴 / 古家 信平 訳 株式会社せりか書房 1979
  • 「Truth In Fantasy54 神秘の道具 日本編」 戸部 民夫著 株式会社新紀元社 2001
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Author:kagasea
名前について:kagasea (kagase@とも。ここでは@が使えなかったのでkagasea。読み方はどちらも「かがせあ」で。)

経緯:ひめたまが始まってわりとすぐ(2010年夏の花火の頃)から知ってはいたものの、ずっと静観していた人間。関連イベントにはちょこちょこ足を運んでみたりして徐々に染まって行きました…。

補足:元々ゲームなどの設定の元ネタを発掘するのが趣味で、その関係で神社や仏閣の知識もほんの少しだけある(と思います)。
その辺から色々妄想したりしてネタを書き留めていきます。

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  • IE8, Chrome10.0.648.205, Operaなどでは正常に動く様子。
  • Mozilla FireFox ver3.6だと何故か型崩れする現象が確認されています。同ver 4.0だと大丈夫な模様。



twitterもやっています。
というかこちらがメイン。
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二次創作のネタとして使って頂ければ幸いです。

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